岡山地方裁判所 平成4年(行ウ)4号 判決 1994年4月27日
原告
甲野太郎(仮名)(X)
被告
新見市長 福田正彦(Y1)
同
福田正彦(Y2)
右被告ら訴訟代理人弁護士
服部忠文
理由
一 本案前の抗弁について
1 〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。
原告は、平成三年一二月二日、新見市監査委員に対し、<1>新見市長が井倉観光との間で締結した平成三年度の井倉洞管理運営業務委託契約による委託料は違法であり、平成四年一月以降分の支払を合理的に再計算して改訂すること、<2>右契約による入洞料総額の二五パーセントを支払うとする部分は、根拠がなく、違法であるので、平成四年一月分以降、右二五パーセント相当額の支払を差し止めること、<3>被告福田は、新見市長として井倉観光に対し支払った平成二年度分の井倉洞管理運営業務委託料六六二一万三七二五円のうち、平成三年度分の井倉洞管理運営業務委託契約に定められた固定費三三七九万二〇〇〇円を仮に正しいとしてこれを控除した残額三二四二万一七二五円を、新見市に賠償することを求めて監査請求をした。
新見市監査委員は平成四年一月三一日、右監査請求に対し、概要として、右<1>につき、平成三年度の契約には積算根拠の明確性の点でなお妥当性を欠く面もあるが、契約期間中途で再計算して改定することは道義的にできず、平成四年四月一日の更新期日も間近で時間的に不可能である、平成四年四月一日以降に締結される新たな契約につき地方自治法及び地方財政法上問題がないよう委託料すべての積算根拠を明確にして契約を締結することが重要であり、新見市に右要望した、右<2>につき、入洞料総額の二五パーセントの中には広告宣伝費その他新見市が当然に負担しなければならない費用が含まれており、平成四年一月以降、右二五パーセント相当額すべてを差し止めることはできないが、平成四年四月一日以降の契約においては、地方自治法二条一三項、地方財政法三条、四条に基づき、すべての積算根拠を明確にした委託契約を締結するよう新見市長に勧告し、右<3>につき、右賠償請求金額のすべてが不当な支出とは言い難く、被告福田個人に賠償を求めることは妥当性を欠くもので認められない旨の監査結果を通知し、右監査結果は同日原告に到達した。
新見市監査委員は、右監査結果に基づき、右同日、被告市長に対し、平成三年度契約では一部積算根拠をもとに行われているが、委託契約はすべて積算根拠をもとに行うのが原則であるから、平成四年度以降分についてはすべて積算根拠を明らかにし、地方自治法二条一三項、地方財政法三条、四条に従い、適正に執行するよう、措置期限を平成四年四月一日までとして勧告した。
原告は、本件訴訟を平成四年四月二八日提起し、同年七月二二日の本件第二回口頭弁論期日において、原告が不服とするのは、監査委員の措置請求に対する被告の措置である旨主張した。
2 右認定事実によれば、原告の被告福田に対する訴えは、出訴期間経過後の提起であり、不適法である(原告は監査委員の措置請求に対する被告の措置に不服があるとしているが、前記認定の監査委員の勧告内容を照らせば、被告福田に対して平成三年度分の損害賠償を求めることは、その請求の性格上、監査委員の監査の結果及び勧告内容を不服とするものと解されるから、右請求の出訴訟期間の始期は、平成四年二月一日である。)。
なお、右訴えのうち平成三年度の委託料に関する部分の監査請求は支払いの差止めを求めるものであり、本件訴訟は損害賠償を求めるものであるが、監査請求において、監査委員は、請求された措置とは異なる内容の措置を講じるよう勧告することができ、住民訴訟が、監査請求に係る違法な行為又は怠る事実につきすることができるとされていること(地方自治法二四二条の二本文)からすると、住民訴訟において特定された違法な行為が監査請求のそれと同一であれば、講ずべき措置の内容が異なっていても、監査請求の対象と住民訴訟の対象は同一であるというべきである。
二 被告市長に対する訴えの適法性
1 〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。
被告市長は、前記一1認定の監査委員の勧告に対し、平成四年四月一日、平成四年度の井倉観光との井倉洞管理運営業務委託契約を勧告に従い積算根拠に基づく委託契約にするため鋭意取り組んでいるが、双方の合意に至っていないので、暫定期間(同月一日から同月三〇日まで)につき、月額五〇〇万円で右業務を委託する仮契約を締結し、引き続き積算根拠に基づく正式契約を結ぶため協議を行っていく旨措置したことを、監査委員に対し通知した。
被告市長は、平成四年七月一日、井倉観光との間で、委託料につき別紙の積算根拠に基づき平成四年度の井倉洞管理運営業務委託契約を締結した。
2 右認定事実及び前記一1認定事実によれば、本件提訴当時、被告市長は、監査委員の勧告に従った措置を講じていなかったが、平成四年七月一日付けの右契約により、右勧告に従った措置を採ったことが認められる。
ところで、地方自治法二四二条の二第一項において、住民の監査請求に対する監査委員の監査の結果又は勧告に不服がある場合のみならず、右勧告を受けた執行機関の措置に不服がある場合にも住民訴訟を認め、第二項において出訴期間の始期を別異に定めている趣旨は、監査委員の勧告内容を前提として、執行機関が右勧告に従わない場合に、監査請求人に出訴を認めることにより執行機関が監査委員の勧告に従った措置を講じるように担保するためであると解される。そうすると、執行機関の右措置に不服があるとして出訴した住民訴訟においては、事実審の口頭弁論終結時において右措置に不服があること、すなわち、右措置が監査委員の勧告内容を下回っていることが訴訟の適法要件であるというべきである。
そうすると、被告市長は、措置期限経過後ではあるが、監査委員の勧告に従った措置を講じているから、監査委員の勧告に対する被告市長の措置を不服の理由とする被告市長に対する本件訴えは、右措置により適法要件を欠いたものとなったといわざるを得ない。
なお、原告は、平成四年七月一日付けの右契約内容について積算根拠の内容面での不当性を主張(陳述書を含む。)するが、右主張は、結局、委託料の金額に対する不当性の主張であり、積算根拠の明示に限定して勧告し、委託料の金額については何ら勧告しなかった監査結果に対する不服を前提にするもの(右不服であれば、被告市長に対する本件訴えは出訴期間を経過した不適法な訴えである。)であるといわざるを得ないから、本件訴えにおいては右主張は不適法であり、採用できない。
右によれば、被告市長に対する本件訴えは不適法である。
三 以上のとおり、原告の本件訴えはいずれも不適法であるから却下し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 池田亮一 裁判官 吉波佳希 遠藤邦彦)